和の色を意識
あくまでも、私なりの、私が見る方向にあった日本の色です。
視点はさまざまであり、これが絶対的に正しいというものは世の中には、ほとんどないと思っています。そんな中で、私がみている、私が想いをはせる古(いにしえ)の日本の色は、四季折々の少しずつ優しく変わっていく色、そして装束に用いられた色は、そんな自然の色から丁寧に絞り出した色。
たとえば春なら、少しずつ差を持ちながら個々に色づいていく桜のあいまいな色合わせの景色。
たとえば秋なら、少しずつ差を持ちながら日差しや風雨で、少しずつ変化していく紅葉や銀杏の色合わせの景色。
その間に、暑い夏の情熱の色が加わりながらも、必ずみずみずしい「涼」の色を重ねる日本の情景。
さらに、寒い冬なら、真っ白な雪景色に見え隠れするような人々の暮らしの風景にやさしく降り注ぐ日差し。
そんな景色、情景の色が、私が見ている色です。
歴史の中で登場する人々の色
そして、歴史の中で登場する人々が、布を染めていたのは、そういう自然の恵みから抽出した色ではじまったものです。時代が移り変わる過程で、大陸からあざやかな染料も伝わりました。それでも、日本人はその鮮やかさのぶつかり合いのような色合わせは選ばず、紅一点とでもいいましょうか。差し色として粋に、その鮮やかな色は使えど、日本の色を大切に守ってきたように思います。
江戸時代になると、様々な色がさらに増えていったようですが、庶民の暮らしの情景に入りこんでいた色は、素朴な色が多かったように感じます。
鮮やかな色で刺すのが好きだというご意見をいただいたことがあります。
それも大いに結構で、私も時々、鮮やかな色合いだけで刺すこともあります。パッチワークなどは、いまのところポップな色をよく使います。
しかし、「今の私の心情」としては、このあいまいに移り行く、主張がぶつかり合わない優しい色合わせに、視点がむいているということです。
時代劇で見る色合わせ
時代劇でよく見る色合わせは、とても参考になります。
もっとも、その時代劇の作り手の意図やテーマによっても違いますが、忠実に史実をつたえることにある程度テーマがおかれている場合で、お金をかけている作品は、とても日本的な調和を感じる色あいで衣装なども作られています。
先日、「関ケ原」という1980年台初頭につくられたTVドラマを観ました。かつて、年末年始くらいに3夜連続でお放映されたスペシャルドラマです。
性格を象徴するような主張色を上手に差し色、ピンポイントで使いながらも、日本独特の色重ねが、武士たちの装束にもよく表現されていました。
そんなことを考えながら刺して仕上げたのが、この一枚の寄せ模様です。


